僕と誰かの日常の記録/妄想文章

個人的なブログ。永遠のど素人が一級建築士試験を受けてみた。小説や映画の感想。思いつきで書く創作的文章など。

配達

今日、荷物を配達したアパートで奇妙な体験をした。

「配達ご苦労さまです。ありがとうございます」

そのひとは、懇切丁寧に僕に頭を下げてダンボールの箱を受け取った。

賞状の授与式かなんかかよ、と、だるかった卒業式の風景を思い出した。

「ありがとうございます」
と返し、顔を上げた彼女を直視した瞬間に「あっ」と声が漏れた。

そのひとの顔が異様に美しかったからではない。
女の人の目が赤く充血していて、どう見てもたった今まで泣いていたようなのだ。

僕はなにか声を発するべきか悩んだ。

でも、そんな僕を見て彼女は不思議そうに首を傾げた。

この人はなにを困惑しているのだろうか?というような目で僕をまっすぐ見た。
もちろんその目は赤く腫れていて、彼女の表情との奇妙なギャップを産んでいた。

自分の顔周りの状況をわかっていないのだろうか。
そんなはずはない、と思う。


「あ、では、失礼します」

結局、玄関ドアを閉じてトラックに戻った。

次の配達先に向う。


運転中、想像を膨らませて考えてしまう。


①彼氏とゴタゴタしていた最中にインターホンが鳴った

②感動系の映画の途中でインターホンが鳴った

③僕の想像の及ばない何かに悩んで落涙したところにインターホンが鳴った


考えながら、くだらないと思った。

人様のプライバシーに立ち入るような妄想なんて、下衆のすることだ。でも僕は自分という人間の根っこがその下衆であることも承知している。それを認めることはなんだかとても残念であるけれど。

なんとなく僕は、小さい段ボール箱を配達した女性の幸せを祈って、それから考えるのをやめた。

その時、
あの女性の身の上になにが起こっていたのか、
それとも一切なにも起こっていなかったのか、
僕には到底知りようもない。