枝豆と肉
ぼりぼり、ぼりぼり、ぼり。
彼は、ダイニングチェアに胡座をかきながら、テーブルに広げた枝豆をつまんで食べている。コンビニで買ってきた、プラ容器に包装されて開けたらすぐ食べられる茹で枝豆。ひとつまみ、ひとつまみ、一心不乱に食べている。
僕はキッチンで肉を焼きながら横目で彼をちらと見る。
「あのさ」
と、彼は思いつけたように言った。
「この枝豆って、いくつ食べても、全然、黒い点とか、豆がしわがれてたりとか、そういうのがないんだね、今気づいた」
そう言いながら枝豆の袋の中からもうひとつつまんで口に入れる。
「これも、きれいな豆だなあ」
「え、それって当たり前でしょ」
と、適当に返事してみる。
「知り合いが家庭菜園しててさ、くれるのよ。トマトとか茄子とか、枝豆もたまに」
「ふぅん」
「その野菜って、なんていうか、ムラがあるっていうか、柔らかいところもあったり固いのもあったり、枝豆はこんな豆の大きさなんかも一定してなくて」
「はぁ」
「そのムラがどうかと思うんだけどさ、でも、この、一定した大きさで、全部同じ色味の枝豆食べてると、なんだかそっちの枝豆の不揃い感も楽しかったんだなってなるもんなんだね」
僕の表情に気づいてか、彼ははっと目を開き言う。
「別にどっちがいいとか悪いとか、そういうむずかしい話じゃないよ。なんとなく思ったことを、言ってみただけ…」
僕はフライパンに目を戻し、肉を焼く。
思ったことをそのまま言えるのは、安心しているからだ、君にしかこんなこと、と彼は以前僕に言ってくれた。でも。
肉が焼けてきた。
彼の好きな焼き加減。
いつもと寸分違わない彼好みのミディアム。
「いい匂いがするなあー」
彼の声が遠くで聞こえる。
僕は火力をわざと上げて、フライパンの中の肉を見つめた。