僕と誰かの日常の記録/妄想文章

個人的なブログ。永遠のど素人が一級建築士試験を受けてみた。小説や映画の感想。思いつきで書く創作的文章など。

1R6畳3万円

僕は煙草のフィルターを口につけて、たっぷりと煙を肺の中に吸い込むと一秒程度の余韻をもって空中に吐き出した。煙の向こう側ではサトシとケイコが笑いながら縺れている。

フローリングの床にはビールやチューハイの空き缶が転がっている。煙草を吸い終わるとその中のひとつを手にとって吸い殻を突っ込んだ。

狭い部屋、絶望的に敷き詰められた万年床とそこに散らばる生活の残骸。
でも目の前のこんな感じを今、なんとかしようと努力する気はまだ起きていない。

サトシとケイコは駅前のスロットに行くのだと言って、わぁわぁと話しながら出ていった。

ひとりになれるのが嬉しかったのか、無意識的に呼吸が軽くなっていくのがわかった。煙草の吸いすぎのせいではなかったと気付く。
奴らが出ていった5分後に、枕の下に置いていた文庫本を取り出して読んだ。

ナナがドアを開けて入ってきた。
僕はそのときベッドにもたれて煙草を吸っていた。
どうしたの?と聞いたけれど彼女はそれには答えないでバッグから取り出した自分の煙草に火をつけた。
不機嫌そうな彼女は、スマートフォンの画面を睨むように見ながら操作して、そのうちそれをソファに放り投げた。
「信じられない」
と呟く。
僕はそれに反応するのを辞めて、ソファから立ち上がると廊下に出てキッチンに向かった。小腹が空いていた。

フライパンに火を通す。
無心になれるからこういうのはわりと好きだ。
卵とハムとレタスをフライパンに順番に放り込んでかき混ぜて、塩コショウを振ってみた。
ナナにも勧めてみたら、一口食べて彼女は「美味しい」と笑った。
屈託のない笑い方だった。

彼女は何かを考えて生きているのか、若しくは何も考えないで暮らしているのか、なんでかそんなことを一瞬追求したくなった。
でも説明することが面倒になってやめた。


ことが終わると、それまでの距離感が嘘のようにナナは僕の肩に顔をくっつけて眠った。

死ぬほど退屈だと思った。

こうしていることや、今僕たちがここで息をしていることなど、そういうことが何か世界に意味を与えているのかとまた唐突に思い浮かんで、続きは途切れた。

首をあまり動かさずに目だけで彼女の様子を見ると目を閉じてすー、すー、と寝息を立てている。

死んでいるように綺麗だなと思った。