これは恋じゃない
ある女の子と肉体的な接触をしたとき、
その一時間後にはすでにほとんどなにも後味が残らなかった。
彼女も僕との出来事を、それと同じに捉えている。
そうだったら、辻褄が合う。
彼女にとって僕はたまに会うコンビニの店員と同じくらいの存在でしかないような気がしてきた。
年をとって欲しい。
願うなら倍速で時間を進んでいって、いろいろなことを諦めていった彼女が、最後に残った自分ともう一度。
なんて、気持ち悪い。自分に、吐き気がする。
最低だ。
でもそんな願望を抑えることができない。
そんな自分が哀れだと、客観的に観るもうひとりがいないわけじゃないのだけれど。
僕は街のベーカリーでパンを買って彼女を待つ。
半月前に会ったときだったっけ。
そのとき、彼女が食べたいと言っていた店のパン。
今日は連絡が入っていた。
昼から会えるよと短い文章。
クロックムッシュがすっかり固くなった頃、インターホンが鳴る。
僕は飛び起きて画面に食い入る。
電気をつけ忘れた部屋はすっかり暗くなっていて、カラードアホンの色が部屋を気味悪く映していた。
僕はモニターを見つめ、心の底から安堵する。