僕と誰かの日常の記録/妄想文章

個人的なブログ。永遠のど素人が一級建築士試験を受けてみた。小説や映画の感想。思いつきで書く創作的文章など。

真夜中にベルが鳴る 1

深夜に鳴動する携帯電話の着信が、まるで救いの音色のように聞こえたことはあるだろうか。

10年も前の話をふと思い出してこの文章を書いている。

その日、僕は下北沢の大衆居酒屋で友人と飲んでいた。
彼とは同じタイミングで上京してきてから、くだらないことや情けない話なんかをなんでも言い合う仲だった。
と、僕は思っている。
心の中はわからないけど、同じ居酒屋で6時間も語れるほど居心地がいいってことは、きっと、そうなんじゃないかってそう思う。

その日は彼に呼び出されたのだ。珍しい。
いや、珍しいというのは、いつも「今日下北に集合な」と短文で誘いを寄越す彼が、なぜだか殊勝な態度で「折り入って話したいことがあるのでわるいけど出て来てくれないか」というのだ。
気味が悪い、すくなくともいい予感はしない。
でも僕はとりあえずいつものように、古着のジャージとナイキのサンダルをつっかけて自転車漕いで、雑多な街へと向かった。

ふらふらと自転車を漕いで居酒屋の前までいくと、彼はもう着いていた。
僕を見つけると、ホッとしたようにいつもの笑顔になった。
「おー、わるいなぁ、急に呼び出して」
彼の目の下になかなか深いクマがあった。

自転車を漕ぎながら、僕が先に彼を見つけていた。
彼は何が不安なのか、僕がいままで見たことのない表情で一秒ごと動く街を落ち着きなく眺めていた。

僕達は居酒屋に入る。
彼は携帯電話をバッグから出して何かを確認する。
「まだ6時半」
と笑った。

ビールを飲む。お通し。冷奴。枝豆。焼鳥。

彼はひっきりなしに携帯電話を開き、また数秒で閉じるとビールをあおった。
「どうした、」
と僕は言った。言わないのが不自然なくらい、そのくらい彼の挙動が自然ではなかったからだ。