僕と誰かの日常の記録/妄想文章

個人的なブログ。永遠のど素人が一級建築士試験を受けてみた。小説や映画の感想。思いつきで書く創作的文章など。

彼女が死んじゃった。

今から十数年前、そんなタイトルのドラマがあったとさ。

今よりもまだ少し視聴率の水準が高かった時代に、このドラマの数字は振るわなかった。
なのに、10年以上の間、僕はこのドラマのことを忘れることがなかった。
そして、ついに最近DVDBOXを買ってしまった。自宅のひとり酒で酔った勢いでぽちっと。サントラも買った。もしも廃盤になったら、永久に記憶の中でしか再現できなくなる。それが僕には心残りだった。
今ではいとも簡単にあらゆる映像データがWeb上で閲覧できるが、ある種類のデータは、そこにいつまでも永遠に残り続けるわけではないのだ。

彼女が死んじゃった。 DVD-BOX

彼女が死んじゃった。 DVD-BOX

出演者は長瀬智也深田恭子、そして香川照之

落ち目のタップダンサー、安西ハジメ。女と酒で自分をごまかす日々を送る。
そんな毎日の中、一夜を共にしただけの女が、死んだ。
それを伝えに来た彼女の妹と、婚約者ーー。

婚約者は、彼女の遺品である携帯に登録されたアドレスひとつひとつに連絡し、彼女の死んだ理由を探そうと提案する。

こうして3人の『携帯巡り』の旅が始まる。


導入部分はざっくりとこんなストーリー。


リアルタイムでこのドラマを観ていた時の感想を一言で表現すると、
「地上波でこんなことやっちゃうんだ!?」
だった。
いや、別に過激な表現やいけないことをしているわけではないのだ。
なにか文学的すぎる。
当時の空気感に逆らうように、人間の内面まで掘り下げてくるような内容に、当時の僕は少しの違和感と大きな喜びを感じたことを覚えている。
視聴率が低かったのも、そのテーマ性ゆえに、といったところだったのだろうか。
スカッとストレス解消になる娯楽的TVにはならない。それはじわりと染み込むような余韻を与えてくれる。

そして、香川照之の役どころはこのドラマでも特筆すべきところだと思う。
自称ゆかりの婚約者、吉川良夫は婚約者ではなく、ゆかりに片想いをし続けていたひとりの男だった。
ゆかりと一度も触れ合えず、それだからこそなのか、一番強い想いを持ち続けてゆかりの亡くなった理由を探し続ける男。
「ゆかり!死ぬ気になれば、僕とだって、付き合えたのに…」

このドラマに香川照之さんがいなければ、それは福神漬けのないカレーライスのように物足りなかっただろう。少なくとも、僕にとっては。

長瀬智也さんの演じる挫折感たっぷりのダンサーも、当時のまだ若くそれだけが取り柄で、社会的に何も得ていない僕にはかなり染みた。
ルックスがよくて適当に女遊びはできるけれど、社会的な成功とはほど遠い場所にある。目を背けたい現実を享楽で誤魔化し、逃げていた、そんな若い男。その男が変わっていく姿を長瀬さんは最高に演じたと思う。僕は、池袋ウエストゲートパークの頃から長瀬さんの雰囲気が好きでファンなのだった。

いきなり、ある主要な人物が亡くなるところから始まるこのドラマ。ドラマが始まった段階では、主人公にとってゆかりはゆきずりの女のひとりに過ぎなかった。
携帯巡りの旅を通じて、ゆかりの輪郭を周りのいつか関わった人間が埋めていって、それが主人公や視聴している僕たちに対して、ゆかりの人物像を徐々に鮮明に浮かび上がらせることになる。

十数年経ってもなぜか心に残る、情緒的な映像だ。

最後に、安西ハジメに向けて言った、ある成金めいた登場人物の名言を。
『お前には未来がある。俺には……、金と愛しかない』

(語ることが足りず、もう1記事続くかも)