僕と誰かの日常の記録/妄想文章

個人的なブログ。永遠のど素人が一級建築士試験を受けてみた。小説や映画の感想。思いつきで書く創作的文章など。

2017年 一級建築士 設計製図試験 『小規模なリゾートホテル』本試験の記憶(前編)

設計製図試験受験期間において、紛れもなく最も濃密な時間だったH29本試験について書こうと思います。
正直なところ、ここまで断続的に強いストレスを受けた一日を僕は体験したことがありませんでした。(何かを「作業すること」に関してのストレスに限定して、ですが)
それは激しい、時間との闘いでした。

試験の最中、確実に三回は「もう駄目だ」という気持ちがよぎりました。
しかし、その度に、頭の中のもう一人の僕の、
「今まで何のためにやってきたんだ。全部この日のためだろう?このまま完成しても受からないかもしれない。でも未完成だけはだめだ。意地でも完成させて採点してもらうんだ」
と、励ましともつかない声が聴こえてきたのです。それは本当に聴こえたのです。まるでどこかの少年漫画のように。
僕は長机の片隅に置いていたGABA(事務作業のストレスを軽減するという触れ込みのチョコレート)をひとつ口に含んで、また描きはじめました。

一度目に絶望が頭をもたげたのは、試験開始から二時間を過ぎたあたりでした。
僕はいつもチビコマである程度見当をつけるとそこから1/400にとぶのですが、本試験当日は二時間を超えた頃にようやくチビコマがまとまった状態でした。
普段ならエスキスを終えて記述に進んでいるくらいの時間に、です。
いつも1/400に50分程度はかけていたので、そのとき僕は、「これは、ひょっとしたら終わらないんじゃないのか」という数時間後の最悪の結果を想像してしまいました。
「冷や汗をかいている」と思いました。そんなことを考えている暇はないのですが、やけに客観的に僕は、額に浮かぶ汗の玉の感触を感じました。


エスキスを長考したその原因は、やはり客室の配置でした。ひたすら6、7スパンのみでこねくり回していたため、なにも決めることができないまま多くの時間を消費しました。
学校の課題では一部8mスパンも練習していたため、8mスパン導入についての可能性は途中から頭の片隅にありました。
ただ、A,B客室を南に並べて間口をスパン半割りの4メートル、すなわち、方向全てを8m割りにするプランはもしかしたらかなりの少数派で、それを採用すれば見当違いの方向に向かってしまうのではないかとの(理由のない)懸念が拭えませんでした。
しかし、いいも悪いも、すでにそれ以外に現状を打開する方法はなかったのです。選択の余地は残されていませんでした。
したがって、そちらの方向に舵を切ったのは時間的に本当に追い詰められてからということになります。

結局、8m×7mグリッドでチビコマを検討し(8m×6m、客室階別ともに検討せず。その精神的余裕なし)、客室が納まりそうなことは確認できましたが、大浴場、機械室あたりのレイアウトは、大規模な要求室かつ不慣れなスパン割りのためチビコマ時点で当たりをつけることができませんでした。全体の面積、階ごとの面積が納まることだけ確認して、1/400へ移ります。普段はやらないことでした。これが二度目の絶望の要因になることを、その時の僕は知りませんでした。

迷う余裕も決断する間もなく、大海原に投げ出され目の前に現れた流木にただ懸命にしがみつくような感覚で、時間は進みました。エスキスを完成させたのは、試験開始から三時間が経とうとする頃でした。