僕と誰かの日常の記録/妄想文章

個人的なブログ。永遠のど素人が一級建築士試験を受けてみた。小説や映画の感想。思いつきで書く創作的文章など。

実例を知るということ。

一通り、一級建築士試験に関する自分の記憶は語り尽くした感がある。
むしろ、試験にパスしたにもかかわらず、ひたすらに過去の思い出を語り続ける自分に薄ら寒さを覚えてきているほどだ。
そのため、今回を節目としてひとまず一級建築士試験関連の記事に一区切りをつけようと思う。(記述についてあまり触れていなかったので、それはいずれ書きたい)
これからは僕にとって発展性のある事柄についても積極的に書いていきたいと思う。


さて、2017年の設計製図試験の課題が発表されてすぐ、僕は図書館に走った。リゾートホテル設計関連の書籍を借りるためだ。
勝負はここからだと思っていた。一級建築士設計製図試験の試験課題は、毎年異なる用途の建築物となる。正直なところ、僕はリゾートホテルの設計のなんたるかについて多くを知らない。

ほとんどの人が資格学校に通う中で、差がつきにくい状況であるならばそれを打破するものは何だろう?

学校で得られる資料以外にたくさんの本を読む。国交省の資料も一式ダウンロードしよう。
とにかく思い付いた先から資料を見つけて目を通した。

(そうすることは、前回の設計製図試験に落ちたあとに、すでに決めていたことだった。当時は一年目ということもあり、学校の課題だけで精一杯。もっと深くまで潜ることが必要だった、と、試験が終わり身の回りが静かになってから気が付いた)

自宅で製図をするのに疲れたら、ソファーに横になり、横に山積みにしてある商店建築を捲った。

商店建築 2017年 10月号 [雑誌]

商店建築 2017年 10月号 [雑誌]

(くしくも、2017年10月の特集がホテルとは…)

実例の写真と平面図を眺めているだけで、感覚的なものが養われてくる。実例として存在する空間の様々なパターンを知る、それが土壇場での判断力の礎となる。(※個人の感想です)

課題のテーマになるべく近いリゾートホテルを選んで宿泊したりもした。
傾斜地にあり、一階にメインエントランス、湖の見えるラウンジ、売店、地下一階に大浴室、レストラン、それに二階と一階に階層を分けて宿泊室(!)といった構成だった。規模こそ多少違えど、課題にかなり近い。外部から階段を使って建物外周をぐるりと散策できるようになっており、高低差の処理の仕方や大浴室への目線の遮りかたなど非常に参考になった。本試験での明暗を分けたのは、実際このホテルに泊まったことが大きいと思っている。

もう一件、ピックアップしていたホテルに泊まったが、そこはイマイチだった。
部屋の指定はしていなかったのだけれど、ホームページを見てロケーションに期待していた僕は部屋に通されて少なからずがっかりした。部屋の窓からは、さっき自分が車を停めた駐車場とロータリー形式の車寄せが眼下に広がっていた。
僕は、建築の勉強という以前に、この降って湧いた小旅行を楽しみにしていたのだ。

結果的に、そういったいくつかの体験は、利用者側から見た空間構成や動線計画の大切さを僕に理解させてくれた。リゾートホテルのなんたるか。身銭を切って宿泊したからこその目線で空間を評価することができた気がする。
今回の課題の良かった点は、宿泊を申し込めば気兼ねなく好きなだけ内部を見学できることだった。サ高住だとこうはいかない。

空間構成的にこれをやっちゃダメか、とか、そういったことは、結局のところ実例にその答えがあると僕は思っている。
無限大にも感じられるエスキスのバリエーションの中で悩んだならば、実例を心の拠り所とするのはひとつの方法だといえる。(※個人の感想です)

たしかに、実例の図面をまるまる課題に活用する機会なんてないし、課題の演習やプランニングは基本を守って学校の資料をもとに行う。ひょっとしたら、実際の本試験では披露しないまま終わる知識がほとんどかもしれない。だけど、もしも極限の状態に陥った時には、きっとその細かな積み重ねが僕を助けてくれる。
根拠もなくそう信じていた。