僕と誰かの日常の記録/妄想文章

個人的なブログ。永遠のど素人が一級建築士試験を受けてみた。小説や映画の感想。思いつきで書く創作的文章など。

一級建築士学科試験の記憶(前編)

僕が初めて一級建築士試験を受験したのは2015年のことだった。

某スクールに前年の11月から通うことにした。
宅建二級建築士と一発合格してきたので、それなりにマークシート式の試験には自信を持っていた。でも、それが思い上がりであることに開講早々に気づかされたのだった。

毎週の講義の終わりにあるテストで思うように点が取れない。ずっと平均点付近をさまよっていた。自分のイメージと早速ずれはじめていた。
衝撃的だったことは、グループで答え合わせをしているときに、どんな問題でも正解を解説付きで教えてくれる強者がいたのだ。
講師ですか?と僕は思った。
こんな人達の中で上位2割を目指さないといけないのか。。

悪戦苦闘の日々が始まった。

スクールに通っていると模擬試験を何回か受けるのだけれど、3回目の模擬の頃には点数も当初より上向いてきていた。それでもやっと80点台。本番を一か月後に控えていた。不安を感じないと言ったら、嘘になります。(あばれる君)
その頃を思い出すと、ちょっと病んでいたと思う。

学科試験当日、初出問題にいやな汗をかきながらも、精一杯問題と向き合った。

斜め向かいの席のアロハシャツを着た若い男が、遺跡から発掘したようなとんでもなく年季の入った法令集を持っていて、試験官からことのほか念入りなチェックを受けていた。会社の先輩から借りてきてどうこう、と絡むような会話をしていたことをなぜか鮮明に覚えている。

男の香水が鼻をついた。こんな勝負の日になんてスメハラだと絶望した。

アロハシャツの男は、退室可能時間になると同時に席を立って出ていった。奇妙な男だ。科目は法規なのに。
でも、僕はただ彼のスメルが遠ざかることに安堵していた。

学科試験の帰りは、気が気じゃなかった。
一年で一番不安定な気分になったのが、この試験後の帰り道だったかもしれない。もうすぐ夕食時なのに何も喉を通らなそうだった。

ふらふらしながらでも家に無事到着し、空きっ腹にビールを流し込みながら正答の情報を待った。

インターネット上で正答予想が出るより早く、スクールの営業から着信があった。
彼は各科目の点数を計画から順番に、適当な間をとりながら話したので、僕はまるでテレビのクイズ番組で正解を祈る解答者にでもなった気分だった。

僕の点数は、今までの模試の出来からすると奇跡ともいえる91点だった。

当然、沸いた。下町ロケット陸王歓喜のシーンと同じくらい沸いた。




浅はかだった。

僕はこのあと、一級建築士学科試験の本当の恐ろしさを知ることになる。