僕と誰かの日常の記録/妄想文章

個人的なブログ。永遠のど素人が一級建築士試験を受けてみた。小説や映画の感想。思いつきで書く創作的文章など。

2017年 一級建築士 設計製図試験 『小規模なリゾートホテル』本試験の記憶(後編)

さて、2017年一級建築士設計製図試験『小規模なリゾートホテル』本試験。

去年の反省を踏まえしっかりと準備をしてきたつもりの僕でしたが、しかし、本試験特有の揺さぶりに早くも心が折れそうになっていたのでした。

 

そんなこんなでなんとかエスキスを終えたものの、時間はすでに三時間を経過しようとしていました。STAEDTLER925を握る手の震えが止まりません。

 

とにかく記述用紙に目を通すことにします。試験開始直後に一読した時にも気づきましたが、今回は空間構成に関する記述がほとんど見受けられません。去年までと違います。

どういうことだ、これは……?

プランニングについては今回は図面が全て、言い訳無用ということなのだろうか、と、嫌な予感めいたものが頭をかすめますが、深く考えている精神的余裕はもちろんありませんでした。

 

そして出ました!絵をかくスペースが今年も!

「また会えたな…」

と僕は心の中で呟きました。

 

前年の試験を思い起こします。「補足してもよい」という文言を真に受けて、広大な、とても広大な補足図のスペースを白紙のまま提出してしまったのです。その時の判断としては少し押していた時間をカバーするため、作図終了後に時間の余裕をつくれたら書く!後回し!と割り切りました。しかし、賢明な読者の皆様はすでにお察しの通り、僕が試験中に記述用紙を手にすることは、二度とありませんでした。

 

今回は、何があっても補足図を書く、と決めていました。

去年は、試験が終わってから、書かなかったことにかなり後悔しました。今年の試験前に、去年の自分が悔んだことだけは今年絶対に繰り返さない、と決めていました。

 

パッシブデザインとバリアフリールームの補足図の空欄を稚拙ながらも隙間なく埋め、50分前後で記述終了。求められた記述量は思いの外少なく、すこし時間が稼げました。空調の記述は、問題を見た瞬間、苦々しい顔になっていることに自分でも気づいたくらいに動揺しましたが、結果的には、自分が書けることを背伸びせずに書くようにしました。

 

これで、作図に残された時間は約2時間50分…。

問題文を読んだ時点で感じていた書き込み要求の多さ。特に什器。

用紙をドラテで留めながら、この作図量が最後まで書ききれるかどうか想像し、息が詰まりそうになりました。やめていた煙草に火をつけてしまいたいとも思いました。

 

無心に、いつもの練習のようにと言い聞かせて線を一本一本引いていきます。練習ではオール定規と、定規+縦線だけフリハンのハイブリッドの2パターンを想定していましたが、秒速でフリハンハイブリッドを選択。もう綺麗さなどに拘っている状況ではないということは確実でした。

 

どのくらい時間が経ったでしょうか。佳境に入り、什器等を記入していた時だったと思います。このへんは本当に余裕がなく記憶が定かでないですが、大浴場の室内レイアウトを書こうと課題文に目を通したときにあることに気づきました。

 

休憩コーナーは、各脱衣室の中につくるのではないの?

 

何を言っているのかわからねーと思うが、俺も何をされたのかわからなかった…。

はい、完全に課題文の読み方を間違っていたことに気づきました。

よく温泉やスーパー銭湯で脱衣所のロッカーの隅っこに椅子やらテーブルが並べてあってお父さんが半裸で休憩している、あのイメージでやろうとしていました。

なんでそうなった?と心で叫びました。

今から思えば、チビコマ時点での構想なし→1/400で焦る→読み違いなどミスする、という、ルーティンを崩した綻びが表れたのでしょう。

そして、共用の休憩コーナーが都合よくはまってくれるようなスペースは、当然ありません。

 

どうする?

 

もう駄目だと思いました。

修正したら、時間切れで落ちる。修正しなければ、減点に耐えきれずに(おそらく)落ちる。

一瞬とも無限とも感じられるこの苦悩の時間!!

 

結局僕は、修正し書き直すことを選択しました。

なぜか?僕の頭にはずっと前年のトラウマがあったからです。できたと思っていて落ちた。ランクⅡ。

僕はその理由を、自身が設定した設計製図試験へのボーダーラインの認識の甘さだと結論付けました。合格の4割は想像していたよりももっと上のバーだったと。

 

だから今回は条件違反をしない、課題文に書いてあることを満たすことは最低限!平面図の補足や記述の補足図などを埋めてやっと勝負だと言い聞かせていました。

 

どうせ落ちるなら、悔いのない方に進んで、落ちたい。

(この時点では、当年の問題が難しく大荒れの予想となるなど、極限状態につき、考え及びませんでした)

 

そして、ある程度書いてしまっていた大浴場の部分を消しゴムで消し、1/200の図面の上で新たにプランを考え始めました。

心が絶望に押し潰されてしまわないように、気をしっかり持つのに必死でした。

 

正確な時間は失念しましたが、修正した大浴場を書き終えたときには驚くほど時間が過ぎていたのを覚えています。

もう見直しできない、というか完成できるかも本当にわからなくなってしまった。ひょっとしたら僕はもう終わっているのかもしれない。そう思いました。

 

それでも未完成だけは、とペンを握りしめました。

 

残り18分となり、ほぼ手付かずの断面図と向き合ったとき、「ここまでか、、?」と、スラムダンク山王戦で大差をつけられた時の宮城の顔がなぜか浮かんでくるのでした。

 

「最後まで希望を捨てちゃいかん。あきらめたらそこで試合終了だよ」

 

「おう、俺は三井。あきらめの悪い男。。。」

 

漫画のシーンが走馬灯のようによぎり、頭の中はカオスです。

絶望を振り切るように断面図を書きなぐりました。

 

そしてタイムアップ。

 

奇跡的に断面図は書き終えることができました。

補足は当然書く時間もなく。

書き直した地下平面図はシャープペンシルの粉で汚れ、お世辞にもいい仕上がりとはいえません。

直観的に、受からないだろう、と感じました。

もう早く帰りたかったです。この教室から早く出て、温かいコーヒーを飲んで休憩したかった。

 

試験官が解答用紙を回収している間、僕はペンをケースに、製図板をバッグにしまい、無性にいらいらしていました。

 

答案の回収が終わり退出が認められると、誰よりも早く逃げるように会場を出ました。

 

無意識に、「角番だ」と口から漏れていました。